はじめに
自分の専門とは異なる分野を新しく勉強して、新しいテーマを考える必要が出てきたため、研究の進め方やアイデアの出し方を見直すことにした。
ジェームス・W・ヤングの「アイデアのつくり方」は、研究のスタイルを見直す中で読んだ本の1つで、非常に簡潔にアイデアの作り方がまとまっている(解説を読まなければ全体で60ページほど、文庫本よりも1ページあたりの文章量は少ない)。
この本は、研究者によらず、新しいアイデアを必要とするすべての人のための本であり、研究者としてどうこの本を実践すればいいかという観点で、類似した研究How to 本やブログを参照しながら、文章としてまとめておくことにした。
ジェームズ・W・ヤング「アイデアのつくり方」まとめ
本の内容を箇条書きでまとめると以下のようになる。本書では、「アイデアが生まれる原理」と、「アイデアのつくり方」の手順に分けて説明されている。
アイデアが生まれる原理
- アイデアとは、既存の要素の組み合わせである。
- 新しい組み合わせを作り出す才能は、事物の関連性をみつけだす才能によって高められる。
アイデアのつくり方(手順)
著者は、以下の5つの段階を順序立てて通過することで、アイデアがつくられると説明している。以下の各段階は、一定の順序で通過するべきであり、それより前の段階が完了するまでは先に進まないことが重要であると述べている。
以上の「アイデアが生まれる原理」「アイデアのつくり方」について、各項目を詳しく説明したものが、本書の内容となる。
研究者からみた「アイデアのつくり方」解釈
以下では、アイデアを作る手順について、各段階を簡潔に説明しながら、各段階を本書よりももう少し細かく説明した本や、現代に合わせた類似の記事を取り上げていく。
1. 資料の収集
この段階は、直接アイデアに関連する情報を集める「特殊資料」の収集と、一見アイデアとは直接関係ない情報にふれる「一般資料」の収集を行う。
この「資料の収集」の過程は、一見すると雑務のようにも見え、多くの人が軽視しているが、高度な知的作業の一環であり、深く行うべきであると書かれている。
特殊資料
研究者にとって、「特殊資料」は、主に論文、関連する書籍や教科書である。自分の専門分野や、新たに参入する専門領域の論文を読む。
論文をたくさん読むべきか、そうでないかという議論は多数あるが、著者の立場では、これからつくるアイデアに関連する情報はなるべく詳しく調べるべきであるとしている。
新しく集めた特殊資料1つにつき、3x5インチのカードにまとめていくことを提案しており、あるテーマに関して、カードのファイル・ボックスができるレベルまで収集することを勧めている。
カードによる索引法は、川喜田二郎「発想法」や、外山滋比古「思考の整理術」でも説明されている。
カードによる索引法の現代版として、落合先生が授業の中で実践する、1論文あたりスライド1ページで多数論文の概要をまとめていく方法がある。
この段階をどこまでやるかという研究者向けの目安として、佐藤 雅昭「なぜあなたの研究は進まないのか」では、そのテーマや分野に関してレビュー論文を書ける程度としている。
一般資料
こちらは一見すると直接作りたいアイデアとは無関係な知識・教養を指す。アイデアの原理でも触れたように、アイデアは既存の要素の組み合わせであり、意外で面白い組み合わせの1つは、その分野と直接関係がないこともありえるためである。
今直接アイデアを出す必要がなかったとしても、日頃から自分の専門以外のあらゆることにも興味を持っておくことが、組み合わせの要素を増やすために重要であると述べられている。
2. 収集した資料の組み合わせを検討する
ある程度資料が揃ったら、収集した資料や知識の要素をそれぞれ組み合わせることを検討する。組み合わせ方としては、先程作成したカードをパズルのようにいくつか並べてみたり、シャッフルして目を通してみたりなどが考えられる。
このときのコツとして、仮の、部分的なアイデアを思いついたら、それを(どんなに突飛なものであっても)メモしておくことが重要である。
この資料の組み合わせの段階は、考えていて嫌気がさしてくる(考えが煮詰まる)段階に達するまでは追求し続けるのが良いとしている。
3. アイデアが思いつかず思い悩む(アイデアを寝かせておく)
まえの段階で、嫌気がさすまで組み合わせを検討したあと、一旦問題を放棄する段階である。問題を意識の外に移し、無意識の創造過程が勝手にはたらくのを待つ、つまりアイデアを寝かせておく工程が必要である。
アイデアを放棄している間は、自分の感情や創造性を刺激するような芸術的なことや読書などに没頭し、一旦完全にわすれるのが良い。
「アイデアを寝かせておく」ことの重要性に関しては、さきほど紹介した外山滋比古「思考の整理学」にも詳しく書かれている。
4. アイデアが思いつく
嫌気がさすほどとことん考えた状態と、一旦放棄する状態を繰り返すことによって、実際にアイデアが思いつく段階にあたる。思いついたときの考えを忘れないために、こちらもノートやカードなどに整理しておくのが良いだろう。
5. 実際に取り組む (アイデアが良いものであるかを検討する)
アイデアが思いついたときには良いものであると感じても、そもそも実際に良いものであるかどうか、取り組む上でアイデアにどんな手を加えていくかは別の問題である。
考えた研究のテーマが良いものであるかどうか、毎回運に任せず事前に検討する方法については、近藤克則「研究の育て方」にまとまっている。本書では、良い研究デザインの条件として、「意義」「新規性」「実現可能性」の3つの観点がすべて含まれていることが重要であると述べている。
ジェームズ・W・ヤングの「アイデアのつくり方」では、アイデアの作り方に焦点があてられており、それが実際にいいアイデアであるかどうかの判断についてはあまり書かれていないため、別途このような書籍を参照するのが良い。
近藤克則「研究の育て方」では、研究テーマを考えてからそれを簡単な構想にして「良い研究であるか」を判断し、具体的な研究計画に育てるまでの工程について詳細に説明がされている。
おわりに(所感)
研究の進め方に関する本やブログなどを、ジェームス・W・ヤング「アイデアのつくり方」に合わせてまとめてみた。本やブログごとに、各段階のどこに焦点を当てて説明しているかが異なっており、「アイデアのつくり方」では、そのすべてを完結にまとめて平等に説明していると感じた。また、自分がよいアイデアを考えられたと感じたときには、概ね上で説明したような手順を追っていたように思うので、良い本だと思う。
まとめながら自分の研究スタイルを振り返ってみると、アイデアを考える最初の「資料の収集」のフェーズが、だんだん適当になりつつあると気づいた。論文読みは、研究に慣れていない段階でやるもの・頭でっかちになるのでそんなに時間をかけるべきではないという意見にのまれてどんどん論文を読む時間が減り、アイデアを生み出すためのインプットの時間が不足していたように思う。
ずっと考えて思い悩むフェーズが必要な一方で、(成果が求められている状況では難しいかもしれないが)一旦意識の外に考えを追い出して、別の「一般的資料」や芸術・文芸にふれる呑気さも、研究の良いアイデアを出すためには必要なのだなと感じた。
私自身は今、博士号取得直後で、新しい分野の知識や技術を身につけて専門を広げていくことが求められているフェーズなので、これを好機とみて、初心に戻って論文を読み込むところから始めていきたいと思う。