概要
- 研究が行き詰まったときの行動パターンを挙げ,なるべく早く脱却するために役立つ本や考え方をまとめる.
- 「向いていないのかもしれない」と判断する前に,研究に対するアプローチを正しくすることで解消することを目指す.
はじめに
恥ずかしながら,
- 自分で考えた研究テーマ・計画が迷走する
- 焦って手を動かした結果,論文としてまとまらないデータばかりを集めてしまう
- 目的とは関係ない勉強に時間を費やしすぎてしまう
などの経験をこれまでに複数回繰り返してきました.
そのたびに研究の進め方や方向性に悩み,本を読み,試してみることを繰り返して,ようやく論文を出すことができる状態まで復帰(?)できたため,研究の進め方を見直す上で参考にした本や資料をまとめておきたいと思います.同じような感覚になった人・または研究室内で行き詰まった学生や後輩を助ける立場にある人に参考になればと思います.
最後に,新しいテーマで取り組み直す際に,個人的に試してみてよかった工夫をまとめています.
研究が行き詰まるときの感覚・感じ方・兆候
以下では,研究が行き詰まったときに感じたことや行動パターンを正直に記入し,行き詰まっているのかどうかを判断するポイントを提供します.
- 研究に関する草案・原稿を書いている時の時間の進みがとても遅く感じる
- 「このテーマが終わったら次はもっと良いテーマで研究をしよう」と思い,適当にまとめようとする(がまとまらない・良いデータが得られない)
- 「指導教員・メンター・共著者は自分の無能さに呆れているのではないか」という感覚に陥る
- 研究以外のことに専念する状態が3か月以上続く(一日の時間のうち大部分が研究以外のことに費やされる)
- 先に重要ではない事務的な作業に手を付けてしまう日が続く
- 手を動かしているのに前進している感覚が得られない・空回りしている感じがする
- インターン・授業の課題など,他人が設定した目的や計画に従って過ごす状態に満足する
- 途方もなく先が見えないことに取り組み続けている感じがする
- 研究の過程を楽しむことを忘れ、結果そのものばかりを気にしてしまう
役に立った本・資料の一覧
うまくいかないときの判断の仕方・基準などがまとまっているもの
→ 研究がうまくいかない・行き詰まる原因を Q&A 形式でまとめ,その段階においてはどのように対処すればいいのかを整理してまとめている本です.
→ うまくいっていない原因が,「それ以上やっても何も得られないところで頑張っている」のか,成長途中に生じる「dip」(一時的にうまくいかなくなるように見える状態)のためにうまくいっていないように見えるのかを見分ける基準の話などがありました.
着想・アイディアの考え方
→ 実際に深堀りしたり,実験を進める前に何をするべきなのかを詳細に説明しています.「これは指導教員や査読者にウケるのではないか」という考え方ではなく,あくまで自分の興味ファーストで出発し,文献の関連付けや深める作業をしていくべきであるという主張がされています.
→ 読んだ文献を整理し,アイデアを出すカード法を説明しています.アイデアを考えるためには,十分に文献を調査したあとに,「寝かせる」時間が必要であるとしています.
→ 「それは面白いですね」レベルではなく,思わず「面白い!」と言いたくなるようなリサーチクエスチョンを考えるための方法として,問題化という手法について挙げています.
研究の進め方・研究についての考え方全体
→ テーマ出しの方法から,テーマの選定,研究の進め方,論文の書き方まで体系的にまとまっています.テーマは意義・新規性・実現可能性のバランスが取れたものを選ぶべきであるという主張があります.
→ 「指導教員の先生はそろそろ自分の無能さに呆れているのではないか……」と感じたときに読みました.たいていそう感じるときは自分が行き詰まっている・パニックになっているだけで,自分の勘違いであったことに気づけました.先生がどんなことを考えて指導してくれているのかがわかってよかったです.
研究資料の整理方法
→ 読んだ文献を体系的に整理する方法として Zettelkastenというメモ術がまとめられています.以下に詳細のレビューを書きました.1年半くらいはこの方法+Obsidianでメモを取るようになりました.
計画の立て方・計画の管理・進め方等
Brian Kennett, Planning and Managing Scientific Research: A guide for the beginning researcher, ANU Press, 2014
行き詰まったときに試してみてよかった工夫
今のテーマから俯瞰したらどうなるかを試す
研究が行き詰まっている場合,視野が狭くなっていることが多いです.一旦今の研究を進めるのをやめて,その周辺で何が起きているか,自分の研究から少し距離を広げるとどんな研究が見つかるかを,網羅的に調査し直して,テーマ設定や前提を考え直すのがいいと思います.
誰かに丸投げするつもりで計画書を作る
「自分がもしそのプロジェクトを遂行できなくなったら,何人くらいがそれを引き継げそうか?」を意識して計画を立てると,自分にとっても遂行しやすい計画になるという話を読みました.具体的に周りの後輩や先輩,共著者を浮かべて,代わりにやってもらうことを想定しながら計画を立てるようにすると,スムーズに作業が進みました.
たとえば,
次の週に(自分が)書くプログラムのテンプレートを作成しておく できるだけ単純作業となるように作業を分割する なぜその作業が必要なのかを文書で説明しておく
ような工夫をすることで,次の研究にも使えるテンプレートができたり,書く際に論文の草案としても使えるドキュメントができたりします.
進捗を報告する仕組みを作る
所属しているSlackに,元生徒が #progress-report というチャンネルを作ってくれたので,一日のはじめにやるべきことをまとめてそこに記入する・終わったらその欄に✓をつけるという習慣ができました.
自分が今日何をするのかを一日のはじめに意識するようになり,途中で作業を投げ出す・他のことに手をつけてしまう・どうでもいい事務作業に時間をかけてしまうというケースが減りました.
Slackには,主に自分より年下の人が所属しており,彼らがもし将来,自分と同じくらいの年齢になった際に,「いまの(計画性がなく迷走しがちな)自分のようにはなってほしくない」という感覚で自分に厳しく予定を決められるようになりました.
うまくいかなさを相談できる人を作る
研究が行き詰まったとき・論文がまとまらないときに,「修士・博士課程なのにこんなことで悩んでいるなんて……」と感じることが何度もありましたが,そのレベルの内容の相談を聞いてくれる人を周りに持つことが大事だと気付かされました.今まで自分がいかに頼りベタだったか,弱音をはくことをためらっていたかを思い知らされました.何でも本を読んで自分で解決しようとするのではなく,たまには頼り上手な人を見習って周りに相談しようと思います.
結果だけを気にするのではなく、過程を楽しむつもりで取り組む
これまでうまくいかなかったり,長続きしなかったことを振り返ると,勝敗やレート,点数など,結果を過度に気にして,その結果に至るまでの過程を十分に楽しめていなかったと感じます.藤井聡太竜王・名人がインタビューで以下のようにいっていたそうですが,本当にそのとおりだと感じました.「結果よりも内容を重視する」「過程を楽しむ」ことを忘れずに取り組もうと思います.
そうですね。結果ばかりを求めてしまうと、逆にそれが出ない時にモチベーションを維持するのが難しくなってしまうのかな、と思っているので。
結果よりも、内容を重視して。そうすることで改善していけるところが新たに見つかると思っているので、それをなんとかモチベーションにしてやっていきたいと思っています。
文字引用: https://grapee.jp/980025
動画引用: https://youtu.be/XmMOmnU_fME
サイドプロジェクトを作る
論文になるかどうかもわからない,そもそも発表もしないかもしれないと思えてくるようなサイドプロジェクトを持つことがいいと思います.それはメインテーマと関連していてもいいし,趣味として全く関係ない分野を追求してみるのもいいかもしれません.自分の目先のテーマの進捗が出ていないときに,知的好奇心を維持し続けるために,気晴らしの研究(または知的探究)のテーマを持っておくと,心を穏やかに保つことができる気がします.本ブログで紹介した「思考の整理学」でも,以下のように述べられています.
「テーマはひとつでは多すぎる。すくなくとも、二つ、できれば、三つもって、スタートしてほしい」。 (中略)
ひとつだけだと、見つめたナベのようになる。これがうまく行かないと、あとがない。こだわりができる。妙に力む。頭の働きものびのびしない。ところが、もし、これがいけなくとも、代りがあるさ、と思っていると、気が楽だ。テーマ同士を競争させる。いちばん伸びそうなものにする。さて、どれがいいか、そんな風に考えると、テーマの方から近づいてくる。
外山滋比古. 思考の整理学 (ちくま文庫) (p.43). 筑摩書房. 1983
おわりに
- 前進している感覚が得られるように目標・計画を立てること
- それを他人にとっても実行しやすい形にしてスムーズに取り組めること
- 結果を過度に気にせず内容を良くする過程を楽しむこと
が重要だと感じました.
同じような悩みを持つ人がいるかはわかりませんが,テーマ変更のタイミング,研究が進まないと感じたタイミングなどで悩んだ際に参考になればと思います.
改めて,行き詰まったときに相談にのってくれた指導教員の先生や,共著の方,友だち,モチベーションのきっかけをくれた後輩や学生に感謝したいと思います.今後も日々執筆する習慣を作って,着想を考えてから,論文としてまとめるまでの流れを自分でできるように精進したいと思います.
(本ブログは学生時代に書いたものを加筆・修正したものです)






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